2018年8月1日
日本銀行
総裁記者会見要旨
(まとめ)
―― 2018年7月31日(火)
午後3時半から約60分
(問) 昨日と今日の決定会合で「量的・質的金融緩和」の持続性を強化する措置の導入を決められたと思いますが、その理由と狙いを総裁からご説明頂け ますでしょうか。
(答) 本日の決定会合では、わが国において物価上昇に時間を要している背 景や、今後、物価上昇率が高まるメカニズムを重点的に点検したうえで、先行 きの経済・物価見通しを展望レポートとして取りまとめました。
また、これを踏まえ、強力な金融緩和を粘り強く続けていく観点から、政策金利のフォワー ドガイダンスを導入することにより、「物価安定の目標」の実現に対するコミッ トメントを強めるとともに、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の持続性を強化する措置を決定しました。
具体的に申し上げますと、まず、フォワードガイダンスについては、 「2019 年 10 月に予定されている消費税率引上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持するこ とを想定している」ことを示すこととしました。
次に、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の持続性を強化する措置について説明します。
長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コント ロール」に関しては、短期金利・長期金利とも、基本的に、これまでの水準から変更ありません。すなわち、短期金利については、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する方針を維持することを決定しました。
長期金利についても、10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、 長期国債の買入れを行う方針を維持しました。その際、長期金利については、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得ることを示すとともに、買入れ額については、国債保有残高の増加額年間約 80 兆円をめどとしつつ、弾 力的な買入れを実施するとの方針を決定しました。なお、長期金利の変動幅に ついては、 「イールドカーブ・コントロール」導入後の金利変動幅、概ね±0.1%の幅から、上下その倍程度に変動し得ることを念頭に置いています。もっとも、 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する方針であり、金利水準が切り上がっていくことを想定しているものではありません。
また、ETFおよびJ-REITの買入れについては、これまでの年間約 6 兆 円、年間約 900 億円という保有残高の増加ペースを維持するとともに、資産価 格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて買入れ額は上下に変動し得るものとする、との方針を決定しました。
このほか、政策金利残高を現在の水準から見直すこと、ETFについ て、TOPIXに連動するETFの買入れ額を拡大することを、合わせて決定しました。
続いて、今回の政策決定の背景となった経済・物価見通し等について、 展望レポートに沿って説明します。
わが国の景気については、「所得から支出への前向きの循環メカニズ ムが働くもとで、緩やかに拡大している」と判断しました。先行きについては、 2018 年度は海外経済が着実な成長を続けるもとで、極めて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、潜在成長率を上回る成長を続けるとみら れます。2019 年度から 2020 年度にかけては、設備投資の循環的な減速や消費 税率引上げの影響を背景に、成長ペースは鈍化するものの、外需にも支えられて、景気の拡大基調が続くと見込まれます。
一方、消費者物価の前年比は、プラスで推移していますが、景気の拡 大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いています。これに伴って、中長期的な予想物価上昇率の高まりも後ずれしています。
この背景に は、長期にわたる低成長やデフレの経験などから、賃金・物価が上がり難いこ とを前提とした考え方や慣行が根強く残っていることなどがあります。
こうしたもとで、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスや家計の値上げに対する慎重 な見方が明確に転換するには至っておらず、分野によっては競争激化による価 格押し下げ圧力が強いと考えています。
企業の生産性向上余地の大きさや近年の技術進歩などが、それらに影響している面もあります。 もっとも、日本銀行としては、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態が続くもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、家計の値 上げ許容度が高まっていけば、実際に価格引上げの動きが拡がり、中長期的な 予想物価上昇率も徐々に高まるとみています。この結果、消費者物価の前年比は、これまでの想定よりは時間が掛かるものの、2%に向けて徐々に上昇率を 高めていくと考えられます。なお、片岡委員は、消費者物価の前年比について、 先行き 2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして、展望レポートに反対されました。
以上の認識のもと、日本銀行は、冒頭申し上げた各種の決定をしたと ころです。こうした対応は、経済や金融情勢の安定を確保しつつ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することにつながると考えています。
日本銀行は、引き続き、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、 これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。
また、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比 上昇率の実績値が安定的に 2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を 継続します。
更に、本日決定したように、政策金利については、2019 年 10 月に予定されている消費税率引上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏ま え、当分の間、現在の極めて低い水準を維持することを想定しています。今後 とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持 するため、必要な政策の調整を行います。